教科書には載っていないデザイナーのリアルなワークフロー

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デザイナーはどんな状況でも魔法のように美しくデザインできる。

プロのデザイナーになる前は、そう思っていました。しかし、そんな素晴らしいデザイナーであっても、スタート地点はみな同じ。そして、同じように日々こんなことにも悩んでいるのです。

  • 写真素材がなくてデザインが進まない
  • ロゴがデザインに馴染まない
  • 求められているイメージが曖昧で、デザインの方向性が定まらない

この記事では、私の経験に基づいてビジュアルデザインの仕事の流れを追いながら、その際に直面する問題とソリューションを紹介したいと思います。

仕事の依頼

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私の場合、知人の紹介やSNSのダイレクトメールで仕事を依頼されることが多いです。そういった仕事の中には、デザインを外注しているだけあって、クライアントの社内にデザイナーがいないことも。もちろん、それによってクライアントを選り好みすることはありませんが、ビジュアルデザインが比較的簡単な業界、難しい業界という違いはあります。

たとえば、注意してWebサイトを見るとわかりますが、最近のWebサイトではビジュアルの半分以上を写真やイラストが占めています。そのため、その業種自体がビジュアルとして映えやすいかそうでないかというのは、デザインの難易度に大きな影響を及ぼします。1を10にするよりも、0を1にすることの方が難しいものです。

デザイナーの役割は、本質的にはデザインによって何らかの課題を解決すること。その解決方法は必ずしも美しいビジュアルを作り出すことではありませんが、ほとんどのクライアントからはどのような状況からでも美しいビジュアルを作り出すことを期待されます。

しかし、十分な素材がない場合はどうしたら良いのでしょうか。まず、この時点で新たなビジュアル素材を別途依頼したり、イラストなどを制作する必要があります。クライアントにも費用や時間などを伝えなければなりません。しかし、その費用やスケジュールがクライアントから承認されない場合は、プロジェクトの早い段階で予想される成果物のクオリティを共有する必要があります。

ヒアリング

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仕事の依頼はSNS経由の場合もあるため、Facebookで連絡を取り合って、プロジェクト内容を確認するためのヒアリング日程を決めることも。

そして、実際にヒアリングする際には、最低限以下のことを聞くようにしています。

  1. 事業内容
  2. プロジェクトの承認プロセス
  3. プロジェクトの成否がクライアントや担当者に及ぼす影響
  4. 想定スケジュール
  5. 予算

まずは事業内容の確認ですが、ヒアリング前にできるだけその業界のことを調べておくと良いでしょう。ヒアリングの際により深い話をするために、業界構造やクライアントの事業に関わるテクノロジーや用語などを確認しておきます。

想定スケジュールと予算に関しては、不十分な場合が多いです。しかし、クライアントはデザインの専門家ではないので、適切な見積もりができないのは当然でしょう。ヒアリングの際は、私の経験から十分だと思うスケジュールと予算の幅を伝え、期待されていること、実際に自分ができることの認識を共有します。その際に、プロジェクトが及ぼす影響を聞いておくと、その交渉の際に役立ちます。

また、予算をこちらから提示する場合は、私は一般的なデザインのプロセスとそれにかかる時間を根拠に見積もっていきます。そのようにして見積もった予算と、予想される成果が釣り合わなそうであれば、それも含めて正直に伝えることにしています。

早い段階からできる限りお互いに情報をオープンにすることは、リスク回避に繋がるだけでなく、ダンピング交渉を事前に防ぐことにもなります。また、ビジュアルデザイン以外の依頼に繋がることもあるでしょう。私は主体性を持つために、その会社の新入社員のように振る舞い、自身に期待されているロール以上のことを提案するようにしています。

コンセプト設計

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簡単なヒアリングをした後は、ビジュアルデザインの基礎となるコンセプトの設計を進めます。コンセプトとは、課題と解決へのアプローチを発見・定義することです。

多くの人はクライアントにコンセプトの答えを求めがちです。しかし、私の経験上、デザインに対してはもちろん、事業そのものに対しても、クライアントが明確なコンセプトを持っていることは多くありません。

その際、クライアントに幻滅してしまうデザイナーもいますが(「ペルソナが20代〜60代の男女だなんて!」といったように)、課題を明確化することはデザイナーの重要な価値のひとつ。クライアントを適切に導けるようにしたいものです。

私の場合は、ヒアリングの内容からコンセプトを提案したり、必要があればクライアントとのワークショップを通じて事業そのものの目的などを一緒に探したりします。

ワークショップでは事業計画や収益構造、数値目標など、一見ビジュアルデザインとはかけ離れた内容が中心となることも多いのですが、ビジネスのプロフェッショナルであるクライアントと同じ「言葉」で議論することで、より多くのインサイト(課題の核心)を得ることができます。時には、この時点で依頼されていたプロダクトが、課題の解決に適切でないと発覚することもあります。

コンセプト設計はUXデザイナーの得意とする領域でもあるので、UXデザイナーとしての知見があればより生産的な議論ができるでしょう。

制作

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コンセプト設計が終わったら、いよいよビジュアルの制作に入っていきます。自身の美的センスとこれまでの調査内容をもとに、最も適切と思われるデザインを作りましょう。

その際、デザイナーはビジュアルの美しさを求めがちですが、コンセプトによってはビジュアルの美しさが目的でないことも多くあります。たとえば、ユニバーサルな使いやすさであったり、ユーザーを楽しませたりすることの方が重要であることも少なくありません。こだわりを捨てて、広い視点を忘れずにデザインを作り上げましょう。

プレゼンテーション

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通常は、手戻りを防ぐため、作り込む前にプレゼンテーションを行います。Webページのデザインであればトップページのみを制作した段階、ロゴであればラフ案の段階です。ほとんどの場合、ラフ案の作成とプレゼンテーションを何度か繰り返します(リテイク)。

プレゼンテーションでは、いきなりビジュアルを見せることはしません。まず、なぜ、何のために、どうやって作ったのかというデザインのコンセプトを説明し、これから見せるビジュアルのどの点に注目してほしいのかを伝えます。適切なフィードバックが得られるようにすることが目的です。

そうしないと、「ここをもっと目立つ色にしてくれ」など、デザイナーからすると的外れなフィードバックをクライアントから受けることがあります。しかし、これを真に受けてはいけません。多くのクライアントはデザインのプロフェッショナルではなく、デザインに対する適切なフィードバックを受けるのは難しいのです。

的外れに思えるようなフィードバックをもらった場合は、その提案によってどのような課題を解決したいのか、その課題がクライアントにどのようなインパクトをもたらすのかを聞き出すようにします。より多くの課題を聞き出すために、その場で解決策を議論することは避けましょう。

また、ビジュアルの見せ方も重要です。ある程度リテイクを繰り返して案が絞られてきたら、現実の環境に極力近づけて提案していきましょう。たとえば、広告であれば街中の看板やのぼりにデザインを合成したり、WebならInVisionやSketch Cloudなどのプロトタイピングツールを使用します。この時点で、デザイン対象の性質によってはユーザーテストなどを行ってもいいかもしれません。

継続的なデザイン改良を目的とするデザインプロセスの中においては、プレゼンテーションは繰り返し何度も行うものです。そのため、私はプレゼンテーションもコンセプト設計などと同様のワークショップとして捉えています。ただ制作したビジュアルを報告するだけでなく、クライアントからより深いインサイトを引き出せるよう、最大限の工夫をして臨みましょう。

公開

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リテイクを何度か繰り返してデザインをブラッシュアップしたら、現実世界にデザインを公開するための準備をします。Webサイトなどをウォーターフォール型で作っていく場合は、デザイン確定後のコーディング作業など、出版物であれば印刷のような工程を経て公開となります。

デザインと一口に言ってもさまざまな目的があるので一概には言えませんが、私の場合は数値改善などビジネス上の明確な目標が定められているものに対してデザインをしていくことが多いため、公開後に課題がどの程度解決されたのかなどの数値の計測を可能な限りするようにしています。

ただし、クライアントによってはその結果を共有してもらえない場合もあるので、事前に確認し、ヒアリングやコンセプト設計の段階から数値の計測方法などもセットで話をしていくといいかもしれません。

いずれにせよ、振り返りは自分の成長を促す良い習慣です。意識して積極的に行っていくと良いでしょう。

おわりに

デザインのワークフローを振り返ると、課題の定義やビジネスに対する理解、効果測定など、一見デザイナーとはかけ離れた仕事が意外と多いことに気づきます。

これは私のデジタルプロダクトを中心としたキャリアが大きく影響しているため、全てのデザイナーに完全に当てはまることではないかもしれません。しかし、やはりクライアントと直接話をしていると、クライアントがデザイナーに対してビジネス視点を強く求めていることを実感します。

以前までは、デザイナーの役割はビジュアルを創作するクリエイターでしたが、現在はそれに加えてビジネス上の課題を抽出するファシリテーターとしての役割まで領域が広がっているように感じます。これからデザイナーになろうと思っている方は、ビジュアルデザインだけでなく、ビジネスにも興味を持ってみるといいかもしれません。