ブランドの方向性や価値を表現する上で、色が持つ力を借りるということを考えてみましょう。
ブランドのロゴやビジュアル・アイデンティティには、様々な視覚的要素が含まれています。そうした視覚的要素には、形、シンボル、数字、言葉などがありますが、最も人の記憶に残りやすいのは、それが何色だったかということでしょう。実際のところ、何色を用いるかということで企業の認知度は最大80%も高まるとされています。
ブランディングをする上では、色が持つ力は感情に訴えかけるものであり、更に実利的な側面も持ち合わせたものです。つまり、その色を見る消費者に何らかの”感覚”を与えたり、分かりやすい色を使うことでそのロゴやアイデンティティを目立たせたりすることができます。
色とブランディングについては数多くの研究がされており、ある商品についてその場でなされる決定の90%はそれが何色かということに基づいているとされています。また、色はそのブランドのパーソナリティ(個性)がどう感じられるかに影響を及ぼす他、ブランドと色が”適切だ”と思われるような組み合わせであることが重要であるということも、研究により明らかとなっています。
デザイナーであっても事業主であっても、それぞれの色が持つ意味合いやそれが象徴するものについて理解を深めておくことで、デザインや事業の上で何色を使うべきかと考えたときに適切な判断をしやすくなるでしょう。例えば激しいスポーツのイメージが強いブランドについて『落ち着き』を表す色を使うというのは、ブランドと色が一致しているとは言えません。
以下では、11色の色についてそれがどのような意味を持つのかをご紹介します。それぞれを比較検討して、あなたのブランドの色選びに活用していきましょう。
意味:赤は、そのコンテキスト(文脈、流れ)によって様々な意味と結びつきます。また、ブランディングにおいては視覚的に強力なインパクトを与える色でもあります。欲望を刺激するような色であり、火の色、血の色でもあるところから、危険を思わせる色とも言えます。一方、愛情やセクシャリティ、情熱を表す場合もあります。大胆不敵のイメージがあり、エネルギッシュで生き生きとした色でもあるため、強さや自信、権力や意志の強さを表すこともあります。
使い方のヒント:非常にパワフルな色であるため、使い方には注意が必要です。しかし、赤を使うことを避けている競合ブランドが多いなら、逆に赤を前面に押し出すことで他よりも目立ちやすくすることもできるでしょう。
例えばKombiは、カナダの寒い気候に合わせた暖かい冬服を扱うブランドです。そのブランド・アイデンティティとして赤が使われているのは、暖かさや熱といったイメージを伝えるためであり、また、赤がカナダの国旗の色でもあるからです。
また、Swedish Democratic Youth Leagueが用いているビジュアル・アイデンティティにも赤が使われていますが、ここでは政党との強い結びつきがあります。スウェーデンでは、赤は赤バラという伝統的シンボルからつけられたDemocratic Party(民主党)の色なのです。
Uniformは、ノルウェーのレストランであるIngierstrandのブランドアイデンティティを赤色を使ってデザインしました。テクスチャや透明性、クリーム色とのコントラストを用いることでその強さが抑えられています。
意味:赤の暖かさと黄色の楽観性を合わせ持つ色であるオレンジは、活動的・活発的といったようなイメージを与えます。また、オレンジ色は果実の色というイメージもあることから、フレッシュで健康的というような感覚を与えることもできます。また、若々しさやクリエイティビティ、冒険的といった印象を与える場合もあります。
使い方のヒント:楽しさや躍動感を連想させる色であることから、若くエネルギッシュなブランドに向いている一方、ラグジュアリーなブランドや、伝統的なブランド、軽薄に思われると逆効果なブランドについては使いづらい色とも言えます。
Feeding the Selfは、アフリカの青年たちが野菜や植物を育てて食べることで自立できるようにサポートする組織です。ここではオレンジが若々しさを伝えるために利用されており、同時に野菜や植物を育てる庭に関連してフレッシュさや健康をも感じさせる色として使われています。
映画制作会社であるAdventureは、そのビジュアル・アイデンティティにオレンジ色を用いています。大胆にオレンジ色を配色して線が太いフォントを用いることで、アドベンチャーや若々しさを感じさせる躍動感を伝えることに成功しています。
Ampersand Agencyのビジュアル・アイデンティティとしてFull Orangeが手がけたデザインの中にも、オレンジ色が広く配色されています。これは、クリエイティビティやエネルギッシュさを伝えるためです。
ビジネスカードを作るなら、Orange Bear Roofing Business CardやOrange Construction Business Card(Canva)をご検討ください。
意味:太陽の光の色とも言える黄色は、笑顔の色とも言えるでしょう。距離が離れていても最も視認性が高い色でもあり、元気、友達感、楽しさ、エネルギッシュさといったものを伝える色でもあります。また、思考の分かりやすさ、明朗さといったものも表します。しかし、例えば立ち入り禁止線のように使われている例もあるため、使う際には注意が必要です。
使い方のヒント:黄色は、色合いによってはチープに見えてしまう場合もあります。そのため、どういった黄色が最も自社ブランドや製品に合っているか調査をして、”正しい黄色”を選ぶことが重要になります。色でチープさを感じさせないためにデザインの工夫が必要という場合もあるでしょう。
例として、The Citrus Brothersの色の使い方を見てみましょう。ここでの黄色は元気づけるようでいて楽しさがあり、思わず笑顔になるデザインとして成功しています。
また、Aschenのコンセプト・ビジュアル・アイデンティティでは、電気自動車を主に扱うことから黄色を使っています。黄色は従来より電気のイメージを伝えますし、その上、エネルギーを感じさせる色でもあるからです。
黄色と黒を組み合わせるのはリスキーな選択ではありますが、Imperoは金色に近い色合いの黄色とシンプルなフォントを組み合わせることで、コンテンポラリーかつ主張を抑えたデザインに仕上げました。全体としてはフレンドリーかつ楽しい印象で、見た目もよく、クレバーな雰囲気も携えています。
意味:緑には、一見すると矛盾しているふたつのイメージがあります。自然体であり環境的というイメージと、お金や裕福さと結びつくイメージです。自然という面から考えると、緑は植物をイメージさせ、そこから環境的・持続的・オーガニックといったような自然を彷彿とさせるイメージを沸かせます。また、緑は(米国の)紙幣の色でもあります。そのため、お金や安定性といったイメージとも結びつくのです。
使い方のヒント:緑の彩度を明るくすれば、成長やバイタリティ、再生といったイメージに近づきます。一方暗くして深い緑に近づけると、地位の高さや裕福さ、潤沢さといったイメージに近づくようになります。
上記のビジネスカードはAlbahacca Restaurantのものです。躍動的なグリーンのイメージをレストランの名前の由来となっているハーブで取り入れることで、フレッシュかつヘルシーで、バイタリティに溢れるブランドイメージを伝えることに成功しています。
Kokoro & Moiのブランディングでも緑色が使われています。ストリート・フード・フェスティバルをプロモーションする上で、蛍光色的な緑色を使うことでアジアの夜市のネオンを演出し、フレッシュかつ真新しい食材が提供されることをイメージさせています。
Filmfaktiskのブランドも、緑の有効利用の一例と言えるでしょう。落ち着いた色合いの緑を用いることで、安心感や裕福さ、懐の深さを感じさせるような表現になっています。
緑をテーマにしたテンプレートとしては、Green Photo Fashion AccessoriesとGreen Vintage Yard Sale Instagram Postをご参考ください。
意味:青は一般に最も好まれる色で、様々な要素を表すのに用いられます。特に企業にとっては、信頼や信用、交流(FacebookやTwitterの色)といったイメージの他、権威的、企業としての正当感といった要素も伝えられる場合があります。また、海や空の色ということもあり、落ち着いているという印象や調和的であるという印象もあります。しかし一方で、『ブルーな気持ちになる』という言葉があるように、悲しさや落ち込み、憂うつと結びつけられることもあります。
使い方のヒント:青は様々なことを表すことができる色であるため、緑と同じように使い方に注意しなければなりません。また、多くの企業が使う色でもあることから、敢えて青を使うことを避けるというのもひとつの手です。
ライフ・コーチングを担うSiegfriedは、コミュニケーションやリーダーシップといったものが重要な要素である企業でもあります。ここでは、そのプロフェッショナルさ、信頼性、そして強さといったものを、躍動的に青を用いることで表し、コンテンポラリーなデザインとして完成させています。
Wo Hing General Storeは、躍動的な青と薄い青を組み合わせることで強いビジュアルを作り出しています。アジアという文化が持つ明るい光に敬意を表しながら、同時に落ち着いた雰囲気をも醸し出しているのです。
上の画像は、ポルトガルの都市であるポルトにWhite Studioがデザインしたものです。街のパターンタイルから色を使うことで、街の物語を伝える媒体が完成しました。
意味:従来より高貴であることや地位が高いことと結びついてきた他、精神的・神秘的といった意味合いも持つ色です。より深い色だとラグジュアリー感や贅沢感と結びつき、淡い色だとフェミニンな印象になったり、センチメンタルやノスタルジーといった印象が強くなったりします。
使い方のヒント:調査によれば、紫は女性を主としたオーディエンスに非常に有効であるとされています。女性には好まれる紫という色ですが、男性受けという点ではそこまで好まれているわけではないらしいことが言われています。一般には紫はブランディングの上では比較的珍しい色で、Forbes(2014)に掲載された企業の中で紫を用いているブランドはCadburyだけとなっています。
紫は万人受けする色というわけではありませんが、Intuのビジネスカードを見てみると、グレーと組み合わせることでよりジェンダー差を感じさせないデザインとして昇華しています。
Tidepool by Moniker
また、他の企業が使っていない色ということは、それだけ差別化が可能な色でもあるということです。Tidepoolはこれに着目し、深紫の色を用いて濃い青や白とコントラストを入れることでリッチかつ高貴な印象のビジネスカードを作り出しました。
ルイヴィルのインテリアデザイン企業であるBella Casaのビジネスカードは、その街のビクトリア調の家々やフランスの影響をイメージしたデザインになっています。女性的でノスタルジック、少しセンチメンタルな印象を与えるため、紫色が有効に使われています。
紫のテンプレートを用いて高貴な印象を取り入れたいという場合には、Purple Floral Wedding Ideas InvitationやPurple Photo Tea Party Invitationの例をご確認ください。
意味:オーガニック食品や自然食品、美容製品などが注目されるようになり、茶色は昨今人気が高まっている色でもあります。自然を表すところから、健康や健全さ、秩序、地に足がついている(安定している)といったイメージを伝えることができます。また、シンプルであること、力強いこと、耐久力があること、誠実であることといったことの他、ありのままであるということを表すような場合もあります。
使い方のヒント:土の色でもあるため、使い方を間違えると汚れをイメージさせてしまう可能性があります。ただ、例えば土壌や土、泥といったものと関連する製品であれば、その結びつきを強めることも有効になるでしょう。
Clayは茶色系統の色を使いコーティング的なテクスチャをつかっていないため、陶磁器の作品を展示する美術館としてのアイデンティティと見事に合致しています。この場合の茶色は大地の色を表し、また、基材が自然由来のものであるということを伝えようとしています。
Everybody Loves Fish & Chipsの例も見てみましょう。様々な色合いの茶色をコーティングされていない紙の上で用いることで、健全さ、自然さ、オーガニックさといった要素を伝えることに成功しています。
ファッションショップであるXXYにMaurizio Pagnozziがデザインしたビジュアル・アイデンティティでは、明るい茶色と、木目調のより濃い茶色が合わせて使われています。これによりブランドのシンプルさ、耐久性、誠実さが伝えられているのです。
意味:ピンク色は常に女性的(フェミニン)という印象が強く、少女的なものという捉え方が主流でした。しかしピンクにも色々な色調があり、その濃さも様々で、それにより多くの意味を与えられるのです。淡いピンクは少女のイメージが強く、甘い感じというニュアンスが強い一方、くすんだピンクは感傷的で、明るいピンクはロマンチックな印象を与えます。また、赤に近く激しいピンクは若々しさやエネルギッシュさ、興奮などを表します。柔らかいピンクは新世代の人々が好む色であり、こうした色のインテリアや絵などは80年代~90年代の人々に特に好まれる傾向にあります。
使い方のヒント:どういったムードや感覚を伝えたいかということをまず特定して、その上で適切なピンク色を選ぶことが大切です。また、ジェンダーレスなブランドにおいても、ターゲットとするパーソナリティや世代によっては、ピンク色が最適という場合もあります。
明るくバラのようなピンク色で作られたのが、Eleanor Finchのビジネスカード(Sam Lane作)です。主に女性をオーディエンスとして対象としていることがこの色が選ばれた要因となっています。しかし、黒のイメージとシンプルなフォント使いも相まって、よりモダンに、少女的になりすぎないように配慮されています。
同じくLaneが作成した、明るいホットピンクのポスター(British Independent Film Festival)です。注意を引くために冗談交じりのテキストを加えながら、エネルギッシュで若々しい魅力をアピールしています。
Georgia Gamborgiのカラフルなビジュアル・アイデンティティを強調しているのも淡いピンクです。ピンク色は甘くロマンチックな印象が強いものですが、若々しさと躍動感を感じさせる下地としても機能する一例です。
Pink Vintage Mixtape Dotted Retro Desktop WallpaperやPink Vintage Bicycle Wallpaperで、PCのデスクトップを明るくしてみましょう。
意味:適切に用いることで、他との差別化が可能なだけでなく、記憶に残りやすく、かつブランドの属性を適切に伝えることもできる色です。黒は、見る者に『真摯』なイメージを与えます。力やラグジュアリーさ、洗練、そしてエクスクルーシブ(限定的)な印象も与えます。一方、死や悪、神秘といった印象が想起される場合もあるでしょう。更に、フォーマルさや(死者への)哀悼、権力といったニュアンスもあり、力強くクラシックなムードを醸し出しながら、『真実を見抜く』というような強さを感じさせる場合もあります。
使い方のヒント:明るい色と組み合わせることでコントラストを利かせたり、金箔を使ってラグジュアリー感を出したり、白黒でモノクロ調のデザインにしたりするのが良いでしょう。また、テクスチャや肌触りなどをよく確かめましょう。マット感やグロス感が変われば、それだけ与えられる印象も変化します。
マットブラックとグロス光沢が強いブラックのフォントを組み合わせることで洗練された印象に、他に無いビジュアル・アイデンティティを作り出したのがA Design Film Festivalの一例です。クラシックでありながら大胆で、そのテクスチャと光沢が一層人の目を引くようになっています。
All For Showが制作したビジュアル・アイデンティティには黒のパターンと金箔の組み合わせが用いられていて、それによりラグジュアリー感とエクスクルーシブな印象を与えることに成功しています。また、これに合わせて写真も用いることで、奥行き感も表現しています。
SWG Studioは、企業ブランディングをする上で幾何学的な線や形をあしらった黒を基調としたデザインを採用しました。見た目としてフォーマル感が強く、プロフェッショナルさと『構えた感じ』が伝わってきます。
意味:シンプルさ、純粋、純真、完全などを表します。完全性を表すためにブランドカラーとして白を使っている企業としては、Appleが筆頭になるでしょう。製品の形や機能の上でも使いやすいシンプルさを売りとしているAppleは、まさに白のイメージカラーがぴったりです。また、”何もなさ”や極度に清潔であるような印象を与える場合もあり、クリーンかつモダンなミニマルデザインによく用いられる色でもあります。
使い方のヒント:白をブランドカラーとして取り入れる場合、そこに個性を持たせるのは難しくなります。そのため、そのブランドがシンプルさや純白さ、透明性といったものを売りにしているということが前提になるでしょう。
デザイナーであるThomas Wightmanは、自身のデザインスタイルを伝える一環として上記のようなデザインを作り出しました。全て白を基調としており、彼の名前を表すための黒とシンボルだけが使われています。全体としてシンプルで分かりやすく、ミニマリズムが根底にあることが伝わるようになっています。
Lucas Leo Catalanoが作成したOrto Botanicoのビジュアル・アイデンティティは、オーガニックで自然な色合いとテクスチャの上に白い文字を配置することで、自然における混じりけのなさや完全性を伝えることに成功しています。
Håndvaerkはそのブランド戦略の中で、磨き抜かれたシンプルさと、クリーンなライン、そして控えめなラグジュアリー感を表現しています。白地に白で表現するという方法を執ることで、純粋さや誠実さ、透明性のアピールをしているのです。
ミニマルデザインを取り入れたブックカバーのテンプレートをご覧頂くなら、Black and White Minimalist Typography Book CoverやWhite and Light Gray Graphic Design Book Coverをご確認下さい。
意味:例えばGoogleやオリンピックなどのように、複数の色をロゴに取り入れるという場合もあります。通常、複数の色を取り入れることで多様性を表現することができます。それは人の多様性、国の多様性、あるいは何を提供するかといったことに関する多様性かもしれません。
使い方のヒント:多くの色を使えば、それだけ実際に印刷するときには印刷代が掛かることになります。そのため、予算を考えながら色を決める必要がある場合もあるでしょう。また、印刷物とデジタル上での見え方を比較し、その差をよく確認しましょう。実際の印刷物と画面での見え方は、大きく異なる場合もあります。
New Images Systemsには6人の従業員が居て、それぞれにひとつずつ色が割り当てられています。これを合わせたイメージがグレーで、グレーとその色を斜線で区切ることで会社の頭文字であるNをも表しています。全体として、個々の従業員の強みが引き立ち、伝わるようにデザインされているのです。
Giggy+Upは、スイス式のポスターや競馬のジョッキーが着るシャツといった要素を組み合わせ、複数の色を取り入れることでジョッキーが着るシャツの多様性を表しました。
Kokoro & Moiが作成したHello Rubyのビジュアルデザインでは、小さな女の子を中心に添えてそのイメージを展開しています。大胆かつ楽しげな配色により前向きな気持ちや好奇心を表す他、更に多様性をも表現することに成功しています。
自分のブランドに適切な色を見つけるというのは簡単なことではありません。しかし、とても大切なステップですし、自分のブランドを最も適切に表していると考えられる色を選ぶことは時間を掛けるに値する重要な作業でもあります。手始めには、次のようなことについて考えてみると良いでしょう。
・ブランドのパーソナリティを表す言葉は何か?
・その言葉に結びつくのは何色か?
・製品やサービスの特徴にぴったりと感じられるのは何色か?
・他の競合は何色を使っているか?
色と単語の組み合わせについては、Cymbolismを参照してみると良いでしょう。ある単語と、それに合う感情を起こさせる効果を持つ色のマッチングを確認することができます(英語サイトです)。
すべて表示